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長寿村の「ここちよい暮らし」 (1)

 岸 朝子  

「日本一長寿沖縄県、沖縄一長寿大宜味村、我々大宜味村老人は、自然の恵みにその糧を求める伝統的食文化の中で、長寿を全うし、人生を謳歌している。80(歳)はサラワラビ(童)、90(歳)になって迎えに来たら、100(歳)まで待てと追い返せ、我らは老いてますます意気盛んなり。老いて子に甘えるな。長寿を語るなら我が村に来れ。自然の恵みと長寿の秘訣を授けよう。我が大宜味村老人は、ここに長寿日本一を高々と宣言する」

沖縄本島の北部、大宜味村の入り口にできた“道の駅”に建立された「日本一長寿宣言の村」の碑に刻まれた言葉です。80歳はサラワラビというところが気にいりました。事実、私の親戚で首里に住む74歳の男性が法事で大宜味村の生家に帰った折、年寄りたちに「ワラバー(子ども)がひげなんかはやして威張っている」と冷かされたと聞きます。60、70は子ども扱いなのも、元気なお年寄りが多いからでしょう。

ご存じのように日本人の平均寿命は男性が77歳、女性が84歳で世界一の長寿国。

その日本で、人口10万当たりの100歳以上の長寿者数は、沖縄県が約28人で、全国平均約9人の3倍以上となっていて、ここ10年間トップの座を占めています(1999年発表)。

その沖縄県の中でも、人口3500人に対し90歳以上が約80人、そのうち5人が100歳以上(1999年)という大宜味村は、一番の長寿村と、照屋林三村長は胸を張ります。そして、「長寿村というのは、生まれてくる子どもと亡くなっていく人とのバランスがとれているってこと。子どももいて年寄りもいる、10名亡くなったら10名生まれるというぐあいになっているのが、長寿村の条件です。大宜味村はそれで長寿村といわれているんですよ」と教えてくれました。さらに、「沖縄県は全都道府県の中で一番所得が低いのに、一番長寿。大宜味村は県内、本島内の市町村の中で、村民所得は最も低いのに一番長寿なんですよ。つまり飽食しない、食べ過ぎないのがいいということでしょう」と話します。

「年寄りでも自分が食べるくらいの野菜は畑で作っているし、その辺に生えているニガナやフーチバー(ヨモギ)も食べる。私たちが子どものころは学校の行き帰りにニガナの葉っぱをちぎって食べていました。学校は遠いし、おなかもすくし、からだにいいって親から聞かされていたしね。朝鮮ニンジンみたいな葉っぱは胃もたれを防ぐし、根っこは泡盛に漬けると万病に効くといわれています。漢方薬ですね。豆腐だって村でとれる大豆を材料にして作るし、魚や貝は目の前の海でいくらでもとれます。役場で宴会するというと、職員が海にもぐって魚を突いてきたり、サザエをとってきたりするんですよ。アーサやモズクもとれるしね。自給自足で自然の恵みを食べているんですよ」と村長さん。話を聞いていると、調理済み食品や加工品に頼っている都会の食生活に較べて「なんとぜいたくな」と羨ましく思います。

沖縄を空から訪れると、小さな島を囲む珊瑚礁の海は、トルコ石のような明るい青緑色ターコイズ・ブルーからエメラルド・グリーンへとリング状に変化していきます。南部の那覇空港に到着する前には、北部の原生林の濃い緑が眼下に広がります。昔から名護市以北は山原(ヤンバル)と呼ばれていました。天然記念物に指定されているヤンバルクイナをはじめ、珍しい動植物の宝庫である奥深い山が海岸線に迫っている山原は、田畑が少ないため、これといった産業も育ちません。確かに経済的には大変ですが、しかし、大宜味村の人たちはそんな豊かな自然の恵みの中で生きているのです。

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